豊後服装lab.コラム

ゆるやかな時間の流れる別府で
食を通して新たな記憶の構築をする

コラムイメージ

別府駅の東口から少し歩いた北部旅館街にある「BASARA HOUSE」
昔懐かしい街並みを残すこの通りに、2018年にオープンしたそのカフェを切り盛りするのは、オーナーの宮川 園さん。
大学時代に縁あって訪れた別府での暮らしに魅了され、移住を決めた彼女。街づくりに対する想いや食べることを通して記憶の構築をする「たべもの建築家」としての活動をクローズアップ。

別府への移住をそっと後押しした
自分の目線で、まちを語れる街づくりがしたいという想い

初めて別府を訪れたのは、東京造形大学3年の春休み、大学講師の課外プロジェクトで浜脇のまちづくりに参加したときです。大学入学当初は、卒業したらゼネコンに入って、設計を通して街づくりに関わるんだろうなと漠然と考えていたんですが、大学1年のときにベトナムを旅して、その価値観ががらりと変わりました。ベトナムで暮らす人たちって、その日暮らしに近い生活をしているけれど、エネルギッシュな生き方をしているのがとても印象的で。別府に来たときに、ベトナムと同じ、街にゆっくりとした時間が流れていることにすごく魅力を感じて、ここに住みたいと移住を決めました。

別府には築80〜90年の建物がたくさんあるんですが、その建物をみて土地や地霊と対話することに興味を持ちました。
もしその建物がなくなってしまっても、そこでつくられた歴史や記憶が建造物として積層されたものなんじゃないかなって。建築って地図を上から見て「ここを拡張したい、全部壊して新しい建物をたてたい」というある意味傲慢な部分があるんです。そういうことはしたくないので、自分目線の地図を作って、自分の目線で街を語れるというアプローチで街づくりをしたいなって。

在学中、学校の近くで畑で野菜を作り、食べ物をつくることや食卓を囲むということにも興味がありました。別府はとても食が豊かな土地で、食べ物も地消地産のものばかりで安心・安全でしたし、新鮮で美味しいものが安く手に入るといのも素敵だなって。別府駅の高架下にある駅市場に行くと、とてもリーズナブルな価格でたくさんごはんが食べられる。そういう生活にすごく憧れていたんだと思います。

愛着はあっても執着はない
身近な人たちと生み出す新たな空間

移住してから約10年が経ち、「BASARA HOUSE」が4軒目の取り組みになりました。別府市は実験がしやすい街なんです。よそ者の目線で街を見ることで、コアな目線でディープに切り込めるし、それによって新しい価値や魅力が生まれると思っています。私の場合は、学生時代にBEPPU PROJECTの芸術祭のプロデューサー、芹沢高志さんに出会い、BEPPU PROJECTに関わるようになって別府での実験がスタートしました。

プロジェクトによって、サポートしてくれる人や仲間はそれぞれ違います。「SELECT BEPPU」は竹職人や陶芸家などの職人さんと、「スタジオ・ノクード」は画家さんとアトリエをシェアして、「スパイス食堂 クーポノス」はベトナム人留学生のフックさんとベトナム人とのコミュニティづくりの一環としてスタートしました。どのお店も私にとってひとつひとつ愛着がありますが、執着はしていないので、次々にお店をつくれるんだと思います。「BASARA HOUSE」も、山田別荘の女将さんがここの物件を借りるということで、1年前に動き出したプロジェクトでした。誰かが声をあげたら、すぐ何かが動く、という流れって、狭いコミュニティだからこその魅力があっていいですよね。

最近は、「バサラ大学」というコミュニティをつくって、別府内でおもしろいプレイヤーを育てようと思っています。APUを卒業した人や休学して何か別府でやりたい子たちに向けて、どうしたらプロジェクトがうまく進むか、デザインを使って形にするか、プレイヤーとしてどうやって自分にファンを作るかということを教えています。今ここにいる自分に起きていることと、その隣の人や50m範囲くらいをくっつけて、一緒に何かをやりたいという人と何かしていくというイメージを大切にしています。

文化人類学的な観点から生まれた
「The Food Architecture」という言葉

別府市で活動するなかで、ALT(外国語指導助手)として宇佐市にきていた男性に出会い、インタビューをしてもらう機会がありました。彼はロンドンの大学で文化人類学を学んでいて、私がやっていることや建築の視点で「記憶・思い出をつくる」という感覚についてすごく興味を持ってくれました。彼の書いた記事が、ロンドンのWEBマガジンで掲載されたんですが、そのときのタイトルが「The Food Architecture (たべもの建築家)」。文化人類学の観点からのネーミングが新鮮で、とてもフィットしているなと思いました。なんてぴったりなんだ!って。

建築的な街づくりという視点で別府に移り住んで、生活する糧になるものとして料理を選んだんですが、私は上から目線の建築は嫌だと思っていて、ここにある記憶や私が作った食事を通して、その人の記憶に種をまくという活動がしたいなと思っています。誰かがこれから作る思い出も私が一緒に作れば、それも私の中の建築学になるんじゃないかなって。

カルチャーを生み出す場所「BASARA HOUSE」で
仕事のスイッチを入れるエプロン

私のファッションの楽しみ方もお店やそのときに関わる人によって変化しています。「SELECT BEPPU」で働いていたときは、モダンガールな感じのワンピースを着て店頭に立っていました。お店のお隣のご主人が洋裁職人さんで、奥さまのためにつくったものを50〜60着いただいて、それをオールシーズン着まわして楽しんでいました。
今は料理をしているので、自分の個性を表現できるアイテムとしてエプロンにこだわっています。エプロンもファッションの一部、私を語るものみたいな感じで、エプロンを着けると仕事のスイッチがオンになりますね。今は20枚くらい持っていて、自分で買ったり、プレゼントでもらったり、オーダーして作ってもらったり。
最近のお気に入りは、北高架商店街の中にある温さんのお店「ON the ON」でオーダーした1枚です。彼女が作るエプロンはどれも素敵で、面白い生地を選んだり、リメイクをしたり、その人の個性に合わせて作ってくれます。
彼女に作ってもらったエプロンはこれで2枚目なんですけど、最初の1枚は昭和っぽく可愛らしい感じに作ってもらったので、今回はボーイッシュに黄色、ピンク、オレンジを使っておもちゃみたいなエプロンを作ってくださいとお願いしました。作業をしない日は、お店に立つときには着られないような、裾が長かったり、真っ白だったりするワンピースを気分に合わせてセレクトします。

AMU PLAZAにもよく行っていて、「AMU PLAZAになさそうなもの」をテーマにお買い物を楽しんでいます。以前ボロボロにカスタムされたデニムジャケットを購入しました。それを見た友達に「それすごくかわいいね!どこで買ったの?」と聞かれたので、「nico and…」だよって答えると、「えー!nico and…っぽくない!」みたいな(笑) 。メジャーなお店でも、どこにもなさそうなアイテムを探すのが好きですね。小さい頃からBEAMS BOYを着ていたので、大分にBEAMSがオープンしたときは嬉しくて、AMUに行くと必ずチェックしています。

最近はスケーターファッションにも興味があって、スケートボードに乗れるように練習しています。これからスケボーに乗って買い物にいけるようになる予定です(笑) 。ストリートカルチャーが好きなので、別府に文化としてのストリートカルチャーをつくりたいと思っています。おもしろいと思ったときにパッとそれを取り入れて、他では流行っていなくても、バサラでは流行っているというのも面白いなって。いろいろな世界を見て、いろいろな料理を食べて、それをバサラで再現して、ここに来たら面白い文化に触れられると思ってもらえると嬉しいですね。

 

宮川 園 SONO MIYAKAWA

東京造形大学デザイン学科に入学後、室内建築を専攻。在学中に別府市浜脇のまちづくりプロジェクトに参加し、別府の街の魅力に触れる。2010年に別府市に移住を決め、NPO法人BEPPU PROJECTの活動を通じて、「SELECT BEPPU」「スタジオ・ノクード」「スパイス食堂 クーポノス」の運営に従事。現在は2018年にオープンした「BASARA HOUSE」のオーナー兼、食を通して思い出や記憶の構築を提案するたべもの建築家として活躍のフィールドを広げている。