豊後服装lab.コラム

「ファッション」って言葉が洋服だけのものになってしまわないように。

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福岡都心では大きなトピックとなった、九州大学校舎跡地に開業した六本松蔦屋書店。その開業と共に、店内のまさに中央に堂々オープンしたのが、コンセプチュアルなセレクトが光る洋服や雑貨などを取り扱う「吉嗣商店 GENERAL STORE」。店名に自らの名前がついたその一角を運営し、アイテムのセレクトを全て行なっているのがディレクターの吉嗣直恭さん。大名の人気ショップ『YIELD』のオーナーという立場からの転身も含め、昨今のファッションやその周辺にまつわるお話を伺った。

アパレルショップを自ら経営していたこともありますし、そこでの厳しさというか、失敗も含めて、本気でまたこの業界に戻るなんて当時は一切考えてなかった。

-YIELDを閉店された後、しばらくファッション業界からは離れてらっしゃったとのことですが。

そうですね。もともとのキャリアでいうと、大名の場所でほぼ10年YIELDというアパレルショップのオーナーをしていたのですが、その後一旦、約一年半くらいですが、ファッションとは全く離れて別の仕事をやりながら完全に外からファッションの業界を眺めているというような状況がありましたね。

-それはあえてそうしようと考えられてのことですか?

YIELDはありがたいことに多くのお客様にもきていただいて、よく言ってくれる方も多かったですし、私のこだわりを見せるという意味ではとてもいいショップだったんですが、こだわっていくという考え方って、経営者としては結構難しい道だったりもするわけです。なので正直もうやりきったかなという気持ちもありましたし、ビジネスとしてファッションのこれからを考えるとやっぱり自分にとっては難しいのかなと感じてお店を閉じたということもありましたので、ここは離れてみようかなと。

-しかし今は「吉嗣商店」のディレクターとして活躍されています。何がきっかけだったのでしょうか?

全く別の仕事をしている時に、『FROM WHERE I STAND』というスーベニアショップがWith the styleという博多のデザイナーズホテルの中にオープンするというプランが立ち上がったんですね、その時、YIELD時代からお世話になっている方々からのお誘いもあって少しお手伝いをさせていただくようになったんです。ただ、アパレルショップを自ら経営していたこともありますし、そこでの厳しさというか、失敗も含めて、本気でまたこの業界に戻るなんて当時は一切考えてなかったんですけど、「吉嗣さんが店舗に立ちませんか?」という風に言ってくれる方々もいてくれたりして、結構悩んだんですけども、まぁどこかで未練もあったのかしれません、とりあえずじゃあ一年だけということにして戻ってきたという感じです。

-離れていた1年半でなにか逆に得られたものなどありましたか?

それはすごいありましたし、やっぱり今考えたらその時一瞬でも離れたのは、これからの仕事のうえでとても重要なキャリアのひとつになっている気がします。ファッションの世界にどっぷりつかっていると、その周辺の人間の価値観が当然になっちゃうので、頭の中の考え方もへんに固まってしまいがちなんです。例えば、ファストファッションが流行るのも、僕らからすると「安いからでしょ?もっといい洋服あるのに残念」とばかりに思いがちなんですけど、ファッションから遠い世界で働いてみると、その周辺の人たちの考え方は意外とそうではなくて、ただ単純に選択肢が多くてわからないだけで、いいものがあれば高くても買うけどねみたいな意見を多く聞いたりするわけです。そうすると、なるほど興味がないわけじゃなくて多様化しすぎてわかりづらくなってしまってるんだなと気づけたりして、「ファッション」って言葉が洋服だけのものになってしまうと危険だなと感じるようになって、もっとその言葉の持つ意味の裾野を広げていかないと、一部のファッショニスタだけのお楽しみで終わるなという危機感みたいなことは感じるようになりました。

-なるほど。ではそこで得られた感覚が、今の吉嗣商店のように洋服だけではない幅広いアイテムのセレクトにつながっているということなんでしょうね。

そうです。FROM WHEREの時もそうでしたけど、最近はSNSとどう付き合っていくかみたいなことってすごく大事なんですけど、たとえばinstagramなんかも、洋服だけずっと投稿するってことはないじゃないですか。結構みなさんその人のライフスタイルが透けて見えるくらい様々な投稿をしてて。そこには洋服以外にも雑貨だったり食器だったり食事だったり、身の回りのあらゆるアイテムが登場してくるわけですよね。それらをひっくるめて「ファッション」っていう言葉で捉えないと、洋服を扱う人間としては今後幅がすごく狭くなっていく気がしているんですよね。だから「うちは洋服屋なので洋服だけ」というような提案ではなくて、トータルでより生活の中での使用イメージが湧くようなアイテムを一緒に取り扱うようにしています。

-人やアイテムも異業種とのコミュニケーションが増えることでファッションという本域にも幅が広がるということですね。

ほんとにそうで、仕事だけじゃなくてプライベートでも、こどもを育てる上でそれまで全く絡むことがなかったお父さんお母さんがたとコミュニケーションをとるようにもなるじゃないですか。そうすると、あぁなるほどこんなこと考えているのかとか、今お母さん世代はこういうのが流行っているのかみたいなことがドンドン増えていくわけです。ファッショニスタ同士の会話も当然面白いでしょうけど、それってすごく狭い範囲をぐいぐい深掘りしようとしているだけで、「視野」という意味では褒められたものじゃない。視野を広げないと、本当の意味でのファッショニスタではなくて、洋服ばっかり集めるコレクターになっちゃうと思います。

-そういう意味では、吉嗣さんの新たなステージがここ六本松蔦屋書店の中だったというのも大きな運命を感じますね。

ですね。ここの館長とはYIELDを始める前から知り合いで、お客さんでもあったのですが、ここをオープンさせるよって時に「何か面白い展開をしたいからアドバイスをくれませんか?」と声をかけていただきまして、YIELDを閉じて別業界にいって、FROM WHEREのような形態のショップに携わることもできて、タイミング的に自分の中で新たに何か挑戦したいなという気持ちが芽生え始めていた時でもあったので、これは是非と。それに蔦屋書店というのはメインは本だったりCDの販売業だったりするのでファッションとは別モノですので、アドバイスという形で関わったとしても無責任だなぁとも考えるようになって、どうせやるなら腹決めてどっぷりつからなきゃなぁということでしっかり会社に入らせてもらったという流れです。

-ということは蔦屋書店の社員という立場なんですね。

そうです。「吉嗣商店」なのでよくオーナーと思われがちなんですけど、実はこの店舗名は館長とかがノリで決めてくれたものなんです(笑)僕自身もびっくりしましたけど、逆にそんな名前つけてくれるのはとても光栄なことですので、改めて頑張らなきゃなぁと思いましたよね。

-これまでのお店に比べてお客さんの層も今のお店は大きく違う気がしますが、難しさも感じますか?

顧客層は全く違いますね。ここはやっぱり書店の真ん中に壁もないスタイルでやっているので、はっきりこういう人が顧客層と言えるものはわかりづらいのですが、下にはスーパーもありますし、上には科学館もありますから、主婦層や子どもさんの数はこれまでとは全然違います。だから僕もこれまでの経験からのセレクトという考え方ではやっていけない部分も多いので、難しさは感じますけど、改めて学んでいるという感覚もあって正直楽しいですね。YIELDの頃からのお客さんとかからは「らしくない」みたいなことも言われちゃいますけど(笑)ただやっぱりその場とか、その時代の流れを掴んで実績を出すということをファーストに考えることが今のファッションビジネスにとってはかなり重要な仕事の一つだとも思ってます。

-今後また吉嗣さんがオーナーさんになっての店舗展開というのも考えられていたりしますか?

今は全く考えていないですね。今の環境はほんとに勉強になるし、正直楽しくて。それに自分はオーナーという立場でこのビジネスに携わらない方が、より実績として多くのお客様のお役に立てる気もしています。経営のことに頭を悩ませる時間があったら、今はアイテムのことだったり、時流を読む時間にあてることで、よりこの「吉嗣商店」というスペースがよくなることにつながって、さらにファッションの裾野を広げられたら言うことなしですね。

-吉嗣さんにとっておしゃれだなと思う人はどんなひとですか?

そうですねー、総じてセンスがいいなって思える人なんですけど、それってほんとバランスがいいってことなんですよ。洋服がどうかとかよりも、やっぱりその周辺にあるいろんなアイテムも含めて見てる気がします。それに身体もしっかり健康的で、姿勢もよくて、振る舞いも気持ちよくて、休みの日の過ごし方も無理がなくて自然で、いつも笑顔でという中身のバランス感覚のよさが外にあふれている人っているじゃないですか。そういう人はおしゃれだなぁと思いますね。僕らが若い頃は、すごくボロくて安い家に住んででも、高い洋服をいっぱい買って、家中服だらけみたいな感じがかっこいい!みたいな風潮もありでしたけど、そういう偏りは今振り返るとあまりおしゃれじゃないなぁと。

-吉嗣さんご自身は普段どんなファッションをされているのですか?

僕自身は偏りが強くて、古着とかアメカジがメインなんですけど、アウターはもう決まってて、コーチジャケットとかカバーオール、あとはモッズパーカーとかが多いかな。ただそれらも昔のトレンドのまんまのやつとかは嫌で、今の時流みたいなものもしっかり捉えていたり、そもそもそういうのを超えてしまったスタンダードだったりを着るようにしています。あくまで古臭くみえないようにですね。だから最近はあまりしなくなりましたけど、ちょっと前までは自分で古着を今風にリメイクして着るっていうことも多かったです。

吉嗣 直恭 NAOHISA YOSHITSUGU

自らがオーナーを務めた大名の人気ショップ「YIELD」の閉店後、一度はファッション業界を離れるも、話題となったWITH THE STYLEのスーベニアショップ「FROM WHERE I STAND」の立ち上げをきっかけにまたファッション業界へ戻り、現在は六本松蔦屋書店内「吉嗣商店 GENERAL STORE」デイレクターを務める。